『読む・打つ・書く 読書・書評・執筆をめぐる理系研究者の日々』(告知文)
更新日:2022年4月1日
今回の課題本は、 『 読む・打つ・書く 読書・書評・執筆をめぐる理系研究者の日々 』 (三中信宏、東京大学出版会)。 書いたのは、多くの著作・翻訳と無数の書評で知られている 理系研究者の三中信宏。 この著者が「本」というものに対してどのような姿勢で向き合ってきたのかを、赤裸々に綴ったものが本書である。 三中は私たちを焚きつける。 「(本に記載されているものは全て)読み尽くせ!」、 「(読んだら必ず息をするように書評を)打て!」、 「(自分が読みたいと思う本を)書け!」と。 そして、こうも言っている。 「最後まで読み進むという第一段階だけでなく、 そこから何を読み取って(読み解いて)いくのかという、 (読みの)第二段階がある」。 「書評した者も逆に評価されているのであり、あることないこと書き散らせば天罰が下る」。 「本を書くことは知識の体系化を図ること。 (受けた学恩に報いるためにも)もっと攻めの姿勢でのぞめ!」と。 さらに著者ならではの切れ味鋭い「みなか節」は加速していく。 ネット書店のレビューでよく目にする「分かり難い本=その著者が悪い」という評価基準への、あからさまな皮肉と受け取れるようなことすらも述べているのだ。 「“善良みなか”がせっかく書いた文章にバクダンをしかけたり、余計な伏線を埋め込んだり、密かな暗号を刻みつけたりするのはすべてこの悪戯好きの“ワルみなか”のしわざである」と。 まるで黒い“ワルみなか”が本書の中で、イヒヒヒッと笑いながら、 読者を惑わすための混乱工作をしている姿が目に浮かんでくるではないか。 だが心配はご無用。 黒い“ワルみなか”は、言葉とは裏腹に(紙の)本を愛する者には非常に優しいのだ。 読書のコツについて多数のヒントを与えてくれている(たとえば「すべて読み」や背景読みやギンズブルクや身体化など)。 書評初心者向けの書き方についても教えてくれている (初心者向けとは一言も言っていないが示してくれてはいる)。 いかにして生産的に書いていくのかというアウトプットに関しても、 その有効策を提示してくれている(整数倍の威力など)。 とにかく本にまつわる貴重なヒントの数々を、惜しげもなく、これでもかと開陳しているのだ。 また、利己的に「読む」、「打つ」、「書く」をちゃんとすることは、 トートロジーではあるけれど、回り回って己のためになること。 (逆に、難癖をつけるだけの罵倒系書評は、その書評を書いた本人のためすらなっていない) さらに(望外ではあるけれど)、それらは結果的に利他的な行為になる可能性があること。 そして、山を超えたその先には、本好きの者にとって居心地の良い場所(サードプレイス)が控えていること(築いていけること)。 など、私たち本好きのこれからの途について、厳しくも暖かい目で漁火のごとく照らしてくれているのである。 心して読めば、あなたにもきっと、 黒い“ワルみなか”からの(本に対する愛情溢れる)プレゼントが見えてくるはず。 ちなみに私自身は、この書籍から「本に対する姿勢は、知に対する姿勢と同じなり」という著者からのメッセージを、勝手に受け取ったつもりになったことを告白したい。 (もうひとつ告白すると、「シアワセ」「フシアワセ」「最後に勝つ」などを事項索引に、「善良みなか」と「ワルみなか」を人名索引に、階層化された項目とは別に手書きで追加しちゃった) もしかしたら著者は、著者自身が面白いと思う本を、(他の理系研究者も含め)多くの人に書いて欲しいと「求め、訴えている」のかもしれない。 と解するのは、それこそ本書で言うところの深読みのし過ぎだろうか。 最後にもう一言だけ。 本書の帯には「理系の本をめぐる」との記載があるが、 人文書も多く取り上げられている。 文系・理系だけでなく「分野の壁を超えた関連性の力」にも言及されており、同テーマに関する著者の今後の展開に注視していきたい。 まことに本好きの欲望にはキリがなく業が深いのだが、 本書によって分野融合という「望蜀」の思いを新たにしたのである。 (おっと、トヨザキ的「取り上げた本を利用して己の思想を披瀝する輩」になってしまったので、課題本の内容紹介はここで終わり)
(ここからは主催者からの「読書会に来てね」というメッセージ) 本書の中に混在している白い“善良みなか”と黒い“ワルみなか”からの贈り物。 これを、みんなで受け取っていきませんか? そして「ここは黒い記述だ」とか、「本文のこことここは実は繋がっていて、こういうメッセージにも解釈できるよね」などと、みんなでワイワイガヤガヤするような楽しい読書会にしていきませんか? 「今年一番の新刊書籍である」と自信を持って選書致しました。 多くの方におすすめしたい本なんですよ。 本好きだけでなく、「書く」ことを仕事にしている。 または「書く」ことに関心のある方々にも、 ぜひ参加して欲しいと願っております。 選書はきちんとするよう(流動食のような本は選ばないよう)心がけていますが、運営自体は感想をしゃべり合うことがメインのゆるい感じの読書会です。 気軽な感じで、遊びに来てくださいね。
